2016年10月9日日曜日

映像インスタレーション/海べの知覚


10月8日早朝
中央線に乗り、いわき行きのバスに乗るため東京駅に向かった。
録音機材とでかいバックパックは、何処かの取材の人みたいで都合がいい。
もし職質されても言い訳がリアルになる。
行き先は、帰宅困難地区の周辺。
今回、許可証の入手が難しくゲート内への合法的な侵入手段は失った。
唯一入る合法的手段は、海岸と並走している国道6号線を通過するくらいだろう。
他に入る手段とすれば、徒歩でゲートを越えて入るしかない。もちろん、違法だ。
ただ、今回の目的は原発に近づくことでは無い。
目的というか、今回行く理由は2つある。

今から5年半前の東日本大震災における原発事故が起こる前、
東京に暮らしてきた僕は、その生活がどこの恩恵で支えられてきたのか全く知らなかった。
原発事故が起こり、東京の街は、計画停電などの対処を迫られ、
今まで知らずに享受してきた自分の暮らしについて、どこの誰が作った電気で自分は生活をしてきたのかを、その時初めて知った。
(生産者と消費者の希薄になった資本主義末期の状況下、まんまと自分自身もその末期的思考に染まっていたわけだ。
日常の中で、例えばスーパーに売られている野菜に生産者の写真が貼られていたり、
地産地消というものが1つのステータスとして扱われていたり、
本当はもっと人と人が顔を見合わせる社会の中で暮らしたいというのが、都会人の本音なのではないだろうか。
僕がインドで感じたあの、懐かしい、人と人との距離感。
東京の距離感とは全く違う。
人情の温度が充満した街だ。注釈の枠を超え始めて、脱線してきたのでここで止める。)
あれから5年が過ぎた今、未だに被災地に足を踏み入れていない。
直に見なければならないと思った。
それが1つ目の理由。

もう1つの理由は、以前から瀬戸内の犬島や、熊野本宮、鳥取県の多々良製鉄史跡などで制作してきたスケッチプロジェクトを福島で行おうと思ったからだ。
スケッチプロジェクトというのは、僕自身がフィールドワークとして不定期かつ断続的に続けているもので、基本的に現地に楽器を持ち込んで、一発録りでその場所の環境音との即興演奏をそのまま収録していくという趣旨で続けているが、今回初めて楽器を持ち込まずに環境音だけを録りにいく。
今回は場所的に環境音そのもの自体が持つ意味合いが強すぎる為、
音楽的抽象を加えず、そのままそれ自体のみで録音した方がいいと考えたからである。

聴覚媒体として音を扱うことを考えた時
今の福島の音としてのメディアに触れたことがなかったということに気がついた。
世界的に見ても人類史的に見てもかなり異質で特殊な現状である被災地は、その意味において特別な音のある場所という捉え方もできる。
生活の音が忽然と消え去り、抜け殻だけになったその街に
今、を伝えるもっとも現場の空気に触れるメデイアとしての側面を持つ”音”に注目した録音をする。
それがもう1つの理由だ。

10月13日は、その場所に自分が赴き、現場の音を採取すると同時に肌感覚で現場を見てくる事。
それを持ち帰り、その時の音と一緒に普段スケッチプロジェクトとして行っているフィールドワークを
表現として舞台上に持ち込んでみる試みである。

演奏家は景色であり、音環境そのものが主役である。現場の鮮度を最大限尊重した環境音楽とも言えるだろうか。ヒグマ春夫さんの映像と現場の音と風景としての演奏の時間を体感して頂ければ幸いです。

是非とも。


大震災で海岸線は、甚大な被害を受けました。あれから5年の歳月が経ちました。今、海べで何が起きているのか? 何が起ころうとしているのか? 何が起きたのか?

映像インスタレーション/海べの知覚
会期:2016年10月12(水)〜16日(日)
会場:キッド・アイラック・アート・ホール 5階ギャラリー
映像インスタレーション:ヒグマ春夫+杉山佳乃子(ダンス)
15:00〜16:00 映像インスタレーション・タイム(無料)

詳細→http://higuma.art-studio.cc/w/umibe-1.html

19:00〜コラボレーション・タイム
料金:当日2000円、予約1500円
10月12日(水)慶野由利子(Computer Music)
10月13日(木)田中悠宇吾(シタール奏者)
10月14日(金)吉田一夫(フルート)
10月15日(土)塩高和之(琵琶)
10月16日(日)翠川敬基(チェロ奏者)
【予約・TEL.03-3322-5564 FAX.03-3322-5676 E-mail: hhiguma@excite.co.jp】




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